平成30年10月26日(金)に、文化パルク城陽(城陽市)において「事業承継セミナー&個別相談会」を京都府よろず支援拠点との協同により開催いたしました(協力:京都府事業引継ぎ支援センター、日本政策金融公庫、京都銀行、京都中央信用金庫、京都信用金庫、京都北都信用金庫、京都信用保証協会、京都府商工会議所連合会、京都府商工会連合会、各商工会、京都府中小企業団体中央会)。
事業承継に対する地域・社会のニーズはますます高まっています。平成29年7月に中小企業庁が策定・公表した「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について」(事業承継5ヶ年計画)においては、「中小企業経営者の高齢化が進み、高齢化が進むと企業の業績が停滞傾向にある中で、70代の経営者でも承継準備を行っている経営者が半数である」という旨の現状認識が示されており、京都産業21においても、各支援機関・関係機関と連携し、円滑な事業承継のために京都府内中小企業への支援事業を展開しております。
そのような支援事業の一環として開催された今回のセミナーの参加対象は、京都府内の中小企業及び事業承継後5年未満の経営者の方・支援機関の方。セミナーの第1部では、実際に事業承継をご経験された経営者の方による事例紹介として、株式会社協和電工いしづ 代表取締役社長の三好雅人様をお迎えして、事業承継に至る流れから事業承継後の実体験までをご紹介いただきました。第2部では、中小企業基盤整備機構 事業承継コーディネーターであり、よろず支援拠点全国本部サポーターである、ジュピター・コンサルティング株式会社 代表取締役の大山雅己様を講師にお迎えして、事業承継を巡る現状や課題、事業承継の成功のヒント等についてご講演をいただきました。
以下、当日の概要をご報告させていただきます。
1.三好雅人様による事例紹介
「『デンキやさん』違いがつないだ いしづのこころ」と題してスタートした株式会社協和電工いしづ代表取締役社長の三好雅人様によるご講演。事業承継に至る流れから事業承継後の実体験までをわかりやすくご紹介いただきました。
まずは事業承継に至る流れについて。創業者で先代の石津和孝氏は、職人肌で現地現場第一主義。昭和37年の精華町での「石津電気」設立、昭和61年の「株式会社協和電工いしづ」への組織変更を経て、電気設備工事事業は家電部門から官公庁や寺社仏閣などの大規模工事に至るまで順調に拡大し、「電気設備工事のジェネラリスト」としてお客様に選ばれる会社へ成長。しかし、デジタル時代が到来し、それまで手書きしていた図面や書面もデータで要求されるようになり「一日でも早く後継者を」という状況に。
そんな折、当時家電量販店の株式会社マツヤデンキに勤務していた三好様は石津様のご長女と御結婚、石津家には待望の「デンキやのお婿さん」が加わることに。三好様は「長男なので養子に入ることは難しいが、会社を絶対残しますので、姓は三好を名乗らせて下さい」と、畑違いの「デンキやさん」人生をスタートされたそうです。
「背中を見て学んでほしい」と先代に師事してスタートした三好様の職人人生は、一からCADを学ぶ苦難の道へ。また、仕事面もさることながら、地元を離れての精華町では、人間関係づくりを0からスタートしなければならない状況。三好様はそこで、知人の方の勧めで精華町商工会青年部へ参加。会議や研修、地域のイベントを通じて、今では「友達をどうやって作ろう、と思っていたのが夢みたい」と思えるような幅広い人間関係を築くことができたそうです。
話題は、事業承継の場面へ。専務取締役就任から10年後の平成24年、三好様はついに代表取締役社長に就任。先代の石津様は「スパッと思い切って任せる、口は出さない、聞いてきたらいつでも教える」という方針で事業を承継されたそうです。三好様はそれを受けて、「先代は現地現場第一主義でしたが、私は経営に専念するので、現場には出ません」という方針で経営をスタート。先代からは「その方針で1億円を稼げるか」と覚悟を問われる場面もあったそうですが、三好様は「社員を信じて、現場を任す」と決意。その結果、それまでは役員の方が中心であった現場でのコミュニケーションを、社員・職人中心のコミュニケーションに転換することに成功。技術力もコミュニケーション能力も兼ね備えた人材としてお客様や関係会社の方からも「またあの職人さんに頼みたい」と好評を博すようになったそうです。
円満な事業承継の実体験をお話される中で、三好様が「今日一番お伝えしたいこと」として切り出された事業承継のポイントは「先代が健在であるからこその喜び」。「お客様の喜ばれる努力は惜しまない」という経営理念(いしづのこころ)をはじめ、経営現場でのわからないことについて、「ありがたいことに、先代が健在だったので、見守られる安心感とともに学ぶことができた」と、感謝の気持ちいっぱいに述べられました。現在、三好様は事業承継時に先代から問われた年商1億円の目標を達成。事業承継・経営生活の中で掴んだ「挑戦できることの喜び」や「みんなで分かち合う喜び」について語られた上で、「今は、“いしづ”を“いちず(一途)“に思っています」と結び、事例紹介講演を締めくくられました。
2.大山雅己様によるご講演
「会社を未来につなげる~10年先の会社を考えよう~」と題してスタートした、ジュピター・コンサルティング株式会社代表取締役の大山雅己様によるご講演。ご講演に先立って大山様は、第1部の三好様のご講演内容が本当に素晴らしく「事業承継の成功の全ての要素があふれており、30分という短時間でとてもわかりやすいご講演でした」とコメント。そのご講演内容に引き続く形で、事業承継を巡る現状や課題、事業承継の成功のヒント等についてご紹介をいただきました。
まずは事業承継を巡る現状について。大山様は、「中小企業の経営者年齢の分布」(60代後半の団塊の世代の方が多い)および「中小企業の平均引退年齢の推移」(67歳~70歳の方が多い)のグラフをもとに、多くの中小企業で事業承継のタイミングを迎えている状況を紹介。そのような状況でありながら、後継者の不在率が全国平均で6~7割に達していることから「この状況がバリューチェーン(=仕事の流れ)の目詰まりや事業の関係者への変化につながってしまう可能性があります。自社だけではなく、取引先や仕入先、外注先などの関係先、あるいは町や地域全体を含めて、“これまではあって当然だったものが、これからはそうではない”というリスク意識を高めて、事業承継に対して備えていくことが重要です」と、事業承継問題を自分事にすることの重要性について述べられました。
次に、事業承継の課題について。大山様は、事業者の資産・経営状況と事業者の事業承継に対する認識とをもとに事業承継の状況・課題や必要な支援の4象限分類図を紹介。各象限で注目すべきポイントを示した上で、「第三象限(債務超過・業績不良かつ事業承継問題が潜在的なゾーン)のケースが最も多く、事業承継時の経営改善課題を地域金融機関や商工団体等の指導員が支援者となって解決の道を模索する必要がある」と述べられました。
さらに、事業承継の課題を改めて3つの課題として整理し、「課題① 事業そのものの課題」、「課題② 事業を託す相手の課題(誰に託すか)」、「課題③ 事業を託す相手により個々に生じる課題(税務・法務・資金調達等)」に分類。特に「課題① 事業そのものの課題が重要です」と強調されました。従来の事業承継の課題認識が相続手続や税・資金対策(課題③)にあったことに対して、それらの問題が実際に発生している件数は全体の3%程度にとどまるとして、現在の事業承継の課題は「事業そのものの承継である」(課題①および課題②)という認識の変化を指摘。「事業の意義や魅力、価値、DNA、知的資産や将来像などの“事業価値の源泉”を見える化し、後継者が継ぎたくなるように語っていく必要がある。それがあって、初めて税金等の問題が出てくることがある」と事業承継の課題の本質を述べられました。
事業価値の源泉を“見える化”し、承継していくにあたり、大山様はアンケート結果を紹介。「老舗企業の強みは何だとお考えですか?」「今後生き残っていくためには何が必要だとお考えですか?」という帝国データバンクのアンケート結果において、1位~上位に「信頼」や「伝統」、「技術」、「顧客」といった目に見えにくい経営資源がランクインする中、物的資産は12位~13位という結果であったことを示し、「現経営者と後継者とが事業について対話を行い、目に見えにくい経営資源・知的資産を承継する必要があります。そして、その承継には時間がかかります。そのことを両者で認識して、現経営者が健在なうちに事業を承継することが重要です」と、事業価値の源泉を確実に承継できるように早めに準備することの大切さを強調されました。
話題は「いかにお客様に選ばれ続けていくか」へ。大山様は「厳しく聞こえるかもしれませんが、売上の減少は、サービスの陳腐化やライバルの出現、認知度の低下などさまざまな要因が考えられるが、要するに『お客様に選ばれなくなった』ということ。事業承継においては、守り続けるべきこと・変えてはいけないことを確実に引き継ぐとともに、社会や市場・顧客のニーズの変化に沿って、変えるべきことは変えていく必要があります」と語り、自社の強みや課題を見える化し、「お客様から選ばれるポイント」を伝えていくことの大切さを述べられました。
「お客様から選ばれるポイント」の例として、大山様は「商品や沿革についての“うんちく話”が選ばれる決め手になることがあります」と事例を紹介。沖縄土産の「スクガラスの瓶詰め」を魚の向きを美しく揃えて手で詰めている例など4事例を挙げ、「そうした“うんちく話”があれば、機会があれば『買っていこかな』となる。そこに価値があります」と、お客様から選ばれるポイントとなるような自社の魅力を認識し、伝えていくことの大切さを述べられました。
そうした自社の魅力を再認識するために、大山様は「自社を振り返る15の対話の視点」およびワークブックの活用方法を紹介。「創業者はなぜこの事業をはじめたのでしょうか」、「過去に大変な時期もあったと思います、それは何で、どのように乗り越えてきたのでしょうか」、「事業内容が創業時と比べて変化しているが、どのような理由があったのでしょうか(事業の転換点となった時期はいつだったのでしょうか)」といった、創業時のことや、転機となったこと、その背景などのことを振り返る問いかけの例を挙げ、「支援に関わる方は、ぜひ、そうした魅力を再認識するような問いかけをしてください」と呼びかけられました。そして、「それらの問いかけを受けて、事業承継の当事者が一人(経営者自身)で、二人(経営者と後継者と)で、社内全員で、と振り返ることが大切です。創業者や経営者だからこそ語れることがありますし、それが後継者や従業員に伝わるようになれば、自分たちがお客様に選ばれる『うんちく話』を社内全員ができるようになります」と語られました。
また、自社の魅力の再認識に関して、大山様は「事業の価値や、社会に対して本当に果たしている役割はなかなかわかりづらい、伝わりづらいです」として、「顧客提供価値」を再認識することの大切さを強調されました。「うちの会社がなくなったら、この町からこの機能・役割が消えてしまう。うちの会社はこれだけ多くの人の役に立っている。そうした、自分たちが手がけていることの価値・重要さを振り返り認識することが大切です。特に、社内での事業承継(親族内承継、従業員承継)においては、自社を振り返る機会が少なくなりがちです」と対話の重要性を強調。「知恵は現経営者から後継者へつなぐことが必要」として、支援に関わる方へ「ぜひ自社を振り返る対話を問いかけていただき、知恵や魅力を引き出して、それに気づくきっかけを与えてほしい」とエールを送り講演をしめくくりました。
セミナー終了後には、事前予約制の個別相談会が開催され、3名の方にご参加いただきました。講師の皆さま、参加者の皆さま、本当にありがとうございました。
* おわりに
京都中小企業事業継続・創生支援センターでは、中小企業の皆様を支援するために、今後もイベントの開催や支援体制の整備・強化を行って参ります。最新情報は『京都起業~承継ナビ』をご覧ください。