平成29年11月1日(水)に、京都リサーチパーク4号館(京都市下京区)において事業承継支援事業「~事業継続のための智恵と工夫~ オープンセミナー」を京都府よろず支援拠点との協同により開催しました。
今回のオープンセミナーでは、事業の変革シナリオを描くビジネスストーリー手法を提案する一般社団法人関西dラボ代表理事の岡田明穂様を講師にお迎えするとともに、京都府よろず支援拠点の林勇作コーディネーターを講師とし、京都府内の中小企業の後継予定者及び事業継承後5年未満の経営者を対象に、事業継承・継続に重要な検討課題「残すもの」、「変えるもの」についてお話いただきました。
講演に先立ち、司会進行役を務める京都府よろず支援拠点の山本チーフコーディネーターより参加者に向けて、本セミナーの受講目的を明確化するためにも机上の付箋に「何をゲットしたいのか」を記すよう促され、4人1組の班ごとの自己紹介で発表。全員で元気よく「イエーイ!」と声をあげ、よりいっそう士気を高めてからのスタートとなりました。
テーマ1
テーマ1では、京都府よろず支援拠点コーディネーターであり京都100年企業コーディネーターでもある林勇作氏が、「残すもの『経営理念と自社の強み』 *時代が変わっても色あせない経営理念と自社の存在理由である強みを考える」と題して講演しました。
まず、事業承継対策として「残すもの」には2つあると述べました。1つは、資産・負債の引き継ぎであり、それぞれ法人と経営者個人のものがあること。もう1つは、これまであまり語られていなかったが大切なもの、経営の引き継ぎということでした。すなわち理念や思いの承継であり、残すべきものである「顧客・取引先・人脈」「人財・組織」から自社の真の強みを見出すことの大切さを述べました。真の強みについては「これさえ見いだせれば、それ以外はすべて変えてもよい」と述べました。
続いては、老舗企業を営む社長への助言として実際に行った、事業承継のアドバイスを紹介しました。「最も大切なものは資産や株ではなく人財や情報であり、企業の経営理念に基づき強みを活かす社員がいなければ企業は続かないこと。そして、社長自らが経営理念を実践し、自社の強みを発揮する姿を社員に見せるよう意識して行動するように伝えた」と述べました。
老舗企業における事業継続の秘訣としては、「残すべきもの、変えるべきものを明確に区分する」、「経営者は将来のビジョンを示し、その達成のために必要な人財を自ら育てる」、「売り手よし、買い手よし、世間“もっと”よし」を披露。400年続く料亭を例にあげ、ダシの味わいを変え続けることでお客様の満足度を変えずにいること。また長年続けていくことで、世間から「この会社は必要だ。無くなったら困る」と思ってもらえるようになることが大事とも述べました。
さらに老舗企業の経営者から聞いた「長寿化に成功している理由」を伝統・革新・人財育成・社会貢献のカテゴリー別に紹介。企業名と活動内容まで具体的に紹介しました。終盤には受講生に対して参加型のクイズも実施。「恩義ある人から借金300万円のお願いがあった場合、あなたならどうしますか?」といった3択問題の紹介とシンキングタイムの後、「老舗企業の経営者はこう考えてこれを選ぶ」といった解答と解説があり、場内は大いに盛り上がりました。
最後に「自分が経営者に就任したその瞬間から、次の世代に引き継ぐための行動を心がけてほしい。それこそがスムーズな事業承継を実現する最大のポイントです」と述べると、参加者の皆様は納得の表情でうなづいておられました。
テーマ2
テーマ2では、一般社団法人関西dラボ代表理事の岡田明穂様より、「変えるもの『ビジネスモデル』 *なぜ変化に対応するビジネスモデルが必要なのかを考える」と題してご講演いただきました。
岡田様は、本セミナーの冒頭で付箋に記した受講の目的を見直し、「達成するにはあと何を身につければ良いのか」を自分に問いかけるよう促されました。これにより目的達成へのヒントが見つかりやすくなる(=カラーバス効果)とのことでした。
まずは「ビジネスモデルとは何なのか」について。岡田様は「ビジネスモデル・ジェネレーション※1 によると、ビジネスモデルとは『どのように価値を創造し顧客に届けるかを、論理的かつ構造的に記述したもの』とあります。この場合の価値とはお客様にとってのハッピーです。以前、ビジネスモデルは『儲ける仕組み』とされていましたが、今では時代遅れとなっています」と述べられました。変えていかなくてはいけない理由については、時代が変わった(満ち足りている消費者に向けて、新たな価値を提案し続けなければならない)・情報が爆発している(情報量が多過ぎて消費者に届けられない)・変化スピードが加速している(商品が導入期から成長期、成熟期、衰退期を迎えるスパンの劇的な短縮化)からだと述べられました。
※1ビジネスモデル・ジェネレーション:戦略的思考を視覚化した画期的なフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」を使った斬新な発想法。新しいビジネスモデルを創造するための実践ガイドで、国内外や規模の大小を問わず多くの企業で採用されている。
「明日さえ予測できない時代、あらかじめ立てた計画に沿って進めるより、時代の変化に素早くアジャスト(調整)していくことが重要」と述べられ、「何かを変えるためには、変化に伴う不安を払しょくするために、変えない何かが必要。その最たるものが経営理念です」とも述べられました。
ビジネスモデルを作る、変えるために有効なビジネスモデルキャンバスについても解説されました。ビジネスモデルキャンバスとは、前述のビジネスモデル・ジェネレーションに掲載されている、現在において世界のスタンダードとされているビジネス構造設計ツール。長方形のシートにパートナー、主要活動、価値提案といった9つのキーワードと解説文が記され、空欄を埋めるだけで完成する仕組みです。
最後に披露されたのは、ある老舗企業におけるイノベーションの歴史をビジネスモデルキャンバスで再現したもの。モデルは、前回の公開講座で登壇された石田結実様が十代目代表取締役を務める「上羽絵惣」。江戸中期の創業期から明治、大正、昭和、平成、そして今後の活動予定に至るまで、各時代のビジネスモデルキャンバスが次々と紹介され、トレンドの変化に対しての的確な対応が明快に見てとれました。
締めくくりに「見えている市場や競合を構造的に解析して論理的に計画を組み立てていく戦略は、もはや通用しません。ビジネスは市場を分析して作るのではなく、イノベーションを通じてデザインしていくものです」と言葉に力を込められました。
事業説明
最後に、当センターより、京都府プロフェッショナル人材戦略拠点事業について、ご説明をさせていただきました。当事業を通じて、地域に新しい優良な質の高い雇用を生み出して、人や仕事の好循環を創出することを目的とし、中小企業の攻めの経営を力強くサポートしています。
また、京都府商工労働観光部ものづくり振興課より、「事業承継税制」について、後継者が非上場会社の株式などを先代経営者から贈与または相続により取得した場合、贈与税や相続税の納税が猶予される制度と手続きなどについて、説明をさせていただきました。(詳細はこちら)
*おわりに
京都中小企業事業継続・創生支援センターでは、中小企業の皆様を支援するために、今後もイベントの開催や支援体制の整備・強化を行って参ります。最新情報は『京都起業~承継ナビ』をご覧ください。